2011年

8月

02日

opnlab レポート「今の政治の状況は首相・政治家だけの問題? 」

「政治」がかつてないほど注目を集める今、オプンラボは7月25 日、レストラン「メルシャン・サロン」で、『永田町、これだけ知っていれば(政治の)議論できます。』をテーマに食事をしながら緩やかに議論する勉強会を開催。講師は、日本経済新聞社   編集局   英文編集部   担当次長の木村恭子 氏。歯に衣着せぬトークと知的な切り返しに、後半は切れ間無く質疑や議論が続き、盛況のうちに終了した。

 

 

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「菅首相は、なかなか辞めませんね…」。――木村氏は、取材先からよくこんな言葉を聞くという。現行の日本の制度下では、首相が自ら辞任する以外に、「首相を辞めさせる」という手段は、内閣不信任案の可決か、内閣信任案の否決以外にない。

 

しかし、木村氏は、小泉純一郎首相の後から繰り返される首相交代を受けて、「菅首相をまったく支持していない」ものの、「また首相が交代すれば、次にパラダイスが待っているのだろうか」と問題提起する。

震災後に露呈した危機管理能力の低さと指導力の欠如。‘短期的’や‘小手先の’、‘気まぐれな’という言葉が似合う国内政治の転落をどう受け止めるか。外国の大使たちも今となっては、日本の未来を担う次なる首相に関心を強めるというよりは、「今の首相がいつまで続くのか」ということに関心を寄せるようになっている。

日本の首相はもとより政治家は、一体いつからこれほどまでに‘軽く‘なったのか。まずは、戦後、日本の復興、そして繁栄と成長の時代を築き上げた政治家たちが、国民に希望や夢をもたらしていた時代を振り返りたい。

 木村氏が挙げたのは、戦後に登場した代表的な首相を中心とした政治家5人。実践力や国際感覚、時代感覚に長けていたのは、サンフランシスコ平和条約を締結させ、冷戦下の対米協調路線と経済国家作りにまい進した吉田茂首相や、「国民所得倍増論」を提唱し、高度経済成長まっしぐらだった池田勇人首相。そして、首相ではないが、関東大震災後に驚くべき速さで復興計画をまとめ、危機対応能力の高さを評価され、現在の東京の原形をデザインしたと言われる政治家・後藤新平の3人だ。

彼らは各々が、官僚(外交官や大蔵官僚など)OBとして、政策を立案する能力や物事を前に突き進める実行力、実践力があった。中には留学経験を持ち、国際感覚にも長けていた。結果として、国民は何か新しい時代への期待や希望を抱くことができる結果となったのだ。

そしてその後、彼らに続いて日本の政治の中心となったのは、「日本列島改造論」を引っ下げ、日中国交正常化を実現した田中角栄首相や、大平首相も中曽根首相もなしえなかった消費税導入を実現させた竹下登首相など、いわゆる‘党人派’と呼ばれる政治家だった。政党(自民党)の中で権力争いを勝ち進む過程で胆力や指導力を養っていった。

その一方で、長期的ヴィジョンがなく、場当たり的で、「首相になることが目的化している」と批判される現在の政治家。最近の政治情勢の中で台頭しつつあるのが、1979年に松下電器産業(現、パナソニック)の創業者である松下幸之助により設立された「松下政経塾」のOBたちである。今や民主党内で次期首相候補として目されている人のほとんどが「松下政経塾」出身者だとも言われている。

政治は、実践力や国際感覚に恵まれた官僚OBの時代から、指導力に長けた党人派の時代、そして松下政経塾OBの時代へ。国の行方や国民の生活は、当然のことながら常に政治家の行動や意志に左右されてきた。

木村氏は、現在の国内政治を一般企業に置き換え、「国民はそこに希望を見いだせるのか?」と問いかける。つまり、目標のない会社、社長が毎年変わる会社、長期的プランや戦略を持たない会社である。会社として全く機能しない状態だが、それが今の日本の政治状況なのだと指摘する。そのような状況に陥った背景にあるのが、‘政治家の資質と政治体制の構造的な問題’だ。

例えば首長選挙より小さい選挙区も存在する衆院小選挙区制や世襲問題など。世襲問題に関しては、日本と同じ議院内閣制の英国では、各選挙区で候補者を選定する際に、厳しい公募・予備選挙のプロセスがあって、いくら「親と同じ選挙区から立候補したい」といっても、その過程で選ばれなければ、世襲議員が同一選挙区から立候補できない、という仕組みができあがっている。これは、世襲制限というよりは、候補者選定プロセスがきちんと確立されている結果だと言える。
日本の政党の場合は、そういった候補者選定責任や、ガバナンスがまだまだだ。 

木村氏が講義の終盤で強調したのは、このような政治の状況を作りあげたのは果たして政治家だけの責任であるのか、ということだ。政治家を選ぶ側、つまり国民の責任はないのだろうか。木村氏は、国民は少し楽観的過ぎると警鐘を鳴らす。現在の政治状況が危ういと認識する木村氏は、今の生活がこのまま安定して続くという保証はないと断じる。一人ひとりが危機意識を高め、政治や政策に対して批判を繰り返すだけではなく、その前段階、つまり選挙で候補者を選ぶという行為を、より一層大切に考えるべきなのだ。

候補者たちが政治家になった後に何がしたいのかを理解し、候補者たちの考えに自分自身が賛成出来るのか否か考え、そして実際に候補者たちの実行力は如何ほどなのかを判断する。国民がしっかりと候補者を見極めること、立候補システムの改善という2つが実現して初めて、今の政治が抱える本質的な問題への解決が見えてくるのではないか。

 

(文:ネットワーク・コミュニケーションズ 小島怜未)

 

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8月29日(月)opnlabでは、7月25日の「永田町(政治)」に続き「経済」について、じっくり木村さんに解説していただきます。

「経済、これだけ知っていれば生きてゆけます@神谷バー」
http://www.opnlab.com/events/kimukyo